東京高等裁判所 昭和42年(ラ)367号 決定 1967年10月06日
抗告人 学校法人東海大学
相手方 学校法人朝陽ケ丘学園
主文
原決定を取消す。
理由
抗告人は「原決定はこれを取消す。相手方の移送申立はこれを却下する。」との裁判を求め、
その抗告理由の要旨は、
前文記載の約束手形金請求事件について、被告は、昭和四二年六月一九日、さきになした移送申立を取下げ同時に抗告人(原告)と被告との間で東京地方裁判所を管轄裁判所とする旨の合意をなし、その合意書を同裁判所に提出した。
というにある。
本件記録によると、抗告人は学校法人朝陽ケ丘学園を被告として、昭和四二年四月七日東京地方裁判所に約束手形金請求の訴を提起し、同裁判所昭和四二年(手ワ)一、五六四号事件として係属中のところ、同裁判所は昭和四二年六月一〇日、民事訴訟法第三〇条第一項により「本件を大阪地方裁判所に移送する。」旨の決定をなしたこと、および、右事件について、原裁判所には管轄権がなく、むしろ、普通裁判籍、特別裁判籍のいずれの点からも大阪地方裁判所の管轄に属することが認められる。従つて、原決定は右の限り正当というべきである。ところが、抗告人は右の決定に対し、適法な即時抗告を申立て、他方右事件の被告は右期間内の昭和四二年六月一九日、原裁判所に前になした移送の申立を取下げるとともに、原告(抗告人)との間に右事件の管轄裁判所を東京地方裁判所とする合意をした上、管轄合意書を作成し、原裁判所に提出したことが認められる。
ところで適法な移送決定がなされた後、右決定が確定されるまでの間に訴訟の当事者間で原裁判所を管轄裁判所とする旨の適法な合意をなした場合には、訴の提起の時に遡つて当該裁判所に管轄権が生ずるものと解するを相当とする。そうすると、前記事件は、当事者間の右合意によつて起訴の時から原裁判所の管轄に属し、同裁判所で審理すべきものである。従つて民事訴訟法第三〇条第一項により大阪地方裁判所に移送する旨の原裁判所の前記決定は違法であり取消を免れない。
よつて、抗告人の本件申立のうち原決定の取消しを求める部分は理由があるが、移送申立の却下を求める部分は前記認定のとおり取下げられているので主文のとおり決定する。
(裁判官 福島逸雄 武藤英一 岡田潤)